「夜が明ける」

淡々と

内容
俺とアキ(深沢暁)は高校の時に出会う。父からの影響で映画好きになり
その中の「男たちの朝」に出てくる、フィンランドの俳優アキ・マケライネンを
アキに教えたことからアキの人生が大きく変わっていく。

感想
この本の話は悲しく辛い。それなのに淡々としている。
なぜだろうと考えたらその場面を詳細にしてないからだ。
例えばアキが母親に虐待を受けていた時にもその場面(その時のアキの感情、
場所やその汚さ、空気感、母親の様子、母親の感情など)が詳しく書かれてない。
多分書かれていたら読むに堪えない。途中で本を閉じてしまうかも
知れないくらいの状況だと思う。それをただ叩かれたや、つねられたと
書かれているだけだ。だからこの淡々とした本になったのは、作者の
独特の空気感なのだと思う。

森が先輩(俺)に対して”(中略)苦しかったら、助けを求めろ。
伝えられた、ああ良かった。ね、先輩。私言いましたからね??
忘れないでくださいね?駄目押しで。苦しかったら、助けを求めろ。”
今までどうしようもない切羽詰まった状態なのに”俺”は一人で何とかしようと
していたのだがどうしようもなかった。けれどこのセリフを読んだ時には
ほっとした。こういう風に言ってくれる人がいたからだ。
”俺”は惰性で仕事をしている状態で段々精神が蝕まれていって
挙句の果てには職を失った。もし、もっと若いときに仕事もやめてしまって
いて転職をしていたら、俺はこんな状態にはならなかったのではないのか。
その見極めができなかったはしょうがないが、体が壊れてから仕事を辞めても
元も子もない。もっともっと若いときに森が会社に対してやっていることを
していたら、状況は変わっていたのでないか。そう思うと悔しい。
もっと早くに手を打っていれば、精神を蝕まれずにいれたのではと。
でもどこの会社でもその会社特有の雰囲気があり、何をしても変わらないところが
ある。暴言やハラスメントが常にあり、それが当たり前になっている。
社員は雇われている身だから、暴言やハラスメントがあってもなにも言えない。
嫌でも笑って済ませなければいけない雰囲気になってしまう。
けれどもし、このセリフのように苦しかったら、助けを求めろ。と言って
もらえるだけでも違う。今までいた自分の世界とは違う目線で今自分が立っている
立場が見れる。そうするといかに異常な場所にいるのか気付ける。
そこから希望が見られれば、救われるのではないか。

アキの人生は幼少期から見れば、悲惨極まりない。でも、高校で友達が出来たことは
良かった。結局アキは自分が幸せになってはいけないと自分を縛っていた。
もっと幸せになればいいのにと思うが、アキは母親のことがネックになっていた。
いつまでも母親の幻影からは逃れられない。高校時代の楽しい時代があっても。
幼少期の虐待は何年たってからでも逃れられない。どうすればこの虐待から
解放されるのか。

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