「沈黙博物館」

不思議

内容
博物館専門技師の”僕”はある村へ行き、ある博物館を
つくるように言われる。

感想
初めての作者だから、こういう書き方をするのかそれとも
この内容だからこういう書き方をするのかわからない。
人物も場所も設定も明らかになっているのに、読んでいると
不思議な感覚に思えてくる。爆発で少女がガラスの破片で怪我をして
長く入院したことや殺人事件で乳首だけ切り取られるのは
大変な事件だが、それも淡々と描かれている。どうしてこんな不思議な
感覚になるのか。上手く例えが見つからないのだが、 外枠だけが滲んで
ぼやけている感じ。例えば沈黙の伝道師がいるから?それだけではないと思う。
読み返してみるとみんな技師や老婆、少女や庭師で、名前がないことに
気が付いた。でもきっとそれだけではない。この村自体が
現実離れした何かがあるのだ。だから一度、技師はこの村を
逃げ出そうとした。結局は逃げれなかったけれど。
そう考えるとちょっとホラー要素があるのかもしれない。

私が亡くなって、沈黙博物館に遺品として飾られるなら何だろうと考えた。
特別自分が大切にしている物や大事にしている物もない。
身に付けているものといえば眼鏡しかない。きっと眼鏡だな。

二十年以上前の作品で、起伏に富んだ内容なのに(いろいろ事件が起こる)
それを気持ち悪く書くのでもなく、ただ、淡々とそこにあるように書くのは
作者の力量だと思う。なかなかこういう風に小説を書くのは難しいように
思える(私は小説は書いたことはないが)
ストレートに気持ち悪さや居心地の悪さや怒ったり泣いたりの感情を
書くのは読む人にとってはダイレクトに分かる。だが、この本のように
それぞれの感情(技師以外は)を出さないで外側だけをなぞる書き方は
すごい。この感覚は読んでみないとわからない。
他の作品もそうなのか、またこの作者の違う本を読みたい。

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