旅に出て美味しいものを食べたい
内容
旅と美味しいもの関する短篇集
感想
「下田にいるか」
予定もなく行く旅行。何も決まってなくて
行先先々で決めて、思わぬ出会い。人やモノや
食べ物。新たな発見。なんかすごくいい。
旅の予定を立てるのも楽しみの一つだが
思い立って何も決めてないのが良い。
平日の水族館で数少ないお客同士との
イルカショーでの感動と奇妙な連帯感。
ロープウェイでの絶景。ホテルでの
思った以上の食事。なんて最高なんだ。
私も予定もない旅をしたいが、独身時代なら
ともかく、今は金銭的に思い立ったらの
旅は出来ない。
「情熱のパイナップルケーキ」
私は海外旅行を二回しかしていない。それも同じアメリカ。
アメリカには知り合いがいたので行けた。
だが他の国には行く気がしない。問題は言葉と食事。
言葉はしゃべれないのと食事は他の国の食事が
口に合うかどうかが心配。どうしても口に合わない時の
ことを考えると尻込みをしてしまう。
台湾のパイナップルケーキがどんなものなのか調べたが
おいしそうだった。
このあまずっぱそうなパイナップルケーキと
恋愛のことが交じり合う。どろどろな下村さんと諏訪野さんの
別れよりもあまずっぱい木元くんの片思いのほうが
パイナップルケーキには合っている。
「遠くの縁側」
パスポートや財布の入った鞄がなくなった。それも
アムステルダムで。帰国するために渡航書が必要になり
渡航書を待つために二日間ぽっかり空いた。
その二日間で揚げ物の自動販売機で見つけてクリームコロッケを
買い、食べる。次はフライドポテトとハイネケンを買う。
運河沿いのベンチに座って食べて飲む。
予定外のことが起こっても少し落ち着いたらやっぱりどこに
いても食べることは忘れないんだなと思った。
それにせっかくアムステルダムにいるのだから、
郷に入っては郷に従えとばかりにアムステルダムの食事に堪能して
読んでいて羨ましかった。時間がゆっくり過ぎているようで
そこは茂木さんの生き方とリンクしているのかなと感じた。
心地よい風が吹いている気がした。
「糸島の塩」
幸は運がいい。騙そうとしていた相手から
助けてもらえるなんて。幸自身は不倫でどうしようもない
男と会社を独立して詐欺まがいのことまでしている。
それを優子が同業者だからと助けてくれた。
幸の苦しくなったらおにぎりを詰め込み、味なんか
わからなかったけど、優子と食べたおにぎりの味はわかった。
幸と母親の関係も悪かったけれど、幸が優子に出会えた
おかげで母親との関係も改善していく。
最後は本当の友達のようになっていくのがよかった。
幸と優子は一緒に仕事ができればいいなと思った。
「もう一度花の下で」
謎解きのようでおもしろかった。祖母とワラエさんと
美南の関係。ワラエさんと美南は良好だったが
祖母はワラエさんに厳しかった。その厳しかった理由が
謎解きとともにわかってくる。
もし美南の推測が当たっていたら、私はワラエさんの
行動は理解できない。妾の子供でも罪はない。
妾の子だと表に出られないのかもしれないが
妾の子が本妻に償うのはおかしい。
今の時代とは違うがやっぱり納得できない。
「地の果ては、隣」
サハリンって行けるのか?どうも行けるらしい。
北方領土問題で勝手に行けないと思っていた。
そもそもサハリンがどこにあるかも知らなかった。
今ではロシア、ウクライナの関係で行けないらしいが
それ以前に行けたことが驚きだ。
ここでも人との出会い、食だ。
一人でツアーに参加したからには一緒に参加した
人たちと当然のように話をするようになる。
いろんなタイプの人がいて、普段なら話をしないような
年齢や性格の人たちとも話せていいなあと思った。
食べるものもロシアならピロシキぐらいしか
知らなかったが、意外と魚もたくさんの料理に出てくるのを
知った。旅の小説って旅行に行った気分になるから
いい。実際に行ってそこの雰囲気や気温やらを
感じるのはもっといいのだけれど、現実には
それもなかなか叶わない。そこを少しだけ満たしてくれるのは
旅の小説の醍醐味なのだろうか。
「あなたと鯛茶漬けを」
出だしから不幸。家族が食事制限をしている所為で
食への関心を失ったのは人生の大半を損している。
だが理由がそれなりになるのだから仕方がないのだろう。
唯一家族で残った母親も死の淵を彷徨う。
だが母親が入院した先で出会いがある。その出会いが
食への関心を戻してくれた。人と人との出会いはやっぱり
大切。ののさんとの出会いでモンちゃんも変わっていく。
別れが来ても待っていてくれる人がいると思うと
別天地でも頑張れる。私はまだそういう人に会っていない。
もう人生の半分は過ぎているんだけれど。