「ツバキ文具店」を読んで

どんな小説なのかもわからず装幀を見て、ゆっくりした時間が
流れるような小説なのかもと思い、読んでみた。

文具店を営みつつ代書屋としてさまざまな人が要望する手紙を
代書する雨宮鳩子ことポッポちゃん。
ポッポちゃんは代書を頼みに来た人や知り合った人にあだ名を付けるのだが
その人となりがわかりそうなあだ名なのでこんな人じゃないかと
想像しやすい。

代書屋の仕事を見ていると紙選び、書く道具、封筒、切手、文字、
慎重に文面を選び、その相手のことを思いながら一生懸命に
手紙を書いている。私自身そんな手紙を書いたことがない。
でもこの小説を読んでいると自分が疑似体験のように小説の中の登場人物に
手紙を書いているような気分になる。
作中にポッポちゃんが書いた手紙が出てくるのだが、同じ人が書いても
相手によってこんなに用紙や字の書体が違う書き方が出来るのかと
感動してしまった。こんな風に手紙やはがきを書けたら文字を書くのも
好きになるんだろうな。

作中に出てくるポッポちゃんの友人でバーバラ夫人やパンティーや男爵の関係が
理想的だ。つかず離れずだがたまにご飯を食べたり
遊びに行ったりしてうらやましい。

「春」は私が好きな話だ。
自分の子供が幼少期に私と手紙交換をしたことと、QPちゃんの手紙が
重なった。子供なりに一生懸命に書いた手紙を今でも大事にとって
あったのを思い出した。

この本には他にも魅力がある。鎌倉の町が詳しく書いてある。
鎌倉には行ったことはないが、食べるお店や神社が紹介されていて
鎌倉に行きたい、つるやの二世帯住宅のうな重が食べたい、
七福神めぐりしたい。 
本を読んで旅行気分もよいがやっぱり本を片手に実際に鎌倉に行ってみたくなる。
コロナが終息したら行きたい。

この本を読んで、人生をもっとゆっくりと丁寧に過ごしても
いいのではないかと思った。なんにでも早く終わらせなきゃ、合理的にしなきゃと
思っていたけれど、遠回りしてもそれだけの意味はあるのではないか。
手紙はずっと書いたことがないし、年賀状すらラインで終わらせて
それを書くことをしなくなった。
いまさら出す相手も少なくなったが、年賀状ぐらいは相手のことを思って文字や書く道具に
こだわって書いて郵便で送ってもらうことをしてもいいかもという気持ちになった。

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