「白い病気」「マクロプロスの秘密」

生と死と欲望

内容
・白い病気
白死病(チェン氏病)は40歳以上で罹る。感染すると白い斑点ができ、
3か月から5か月で敗血病になり死んでしまう。ガレーンは白い病気の
治療薬を開発する。その治療薬を公開する代わりにある条件を出す。
・マクロプロスの秘密
何百年続くグレゴル家対プルス家の裁判をエミリアという女性が
聞きたいと訪ねてくる。いったいこの女性は誰なのか。

感想(ネタばれあり)
・白い病気
この本はSNSで見つけてビビビッと直感的に面白そうだと感じた。
コロナやロシアとウクライナの戦争のこともあり、今と似通っている時代だ。
白死病の治療の交換に戦争をやめること、永遠平和をもららすことを条件なら普通は
すぐ戦争をやめることを約束する。目の前に死が迫っていて体の中から
腐敗していく恐怖。そのことを考えるだけで何を迷うことがあるのだろう。
だが権力者は領土や戦費のことなどで後戻りは出来ないという。
おまけに”戦争にはかならず勝つ”。と思い込んでいる。
これを読んだ時、”やり始めたら後戻りできない”はどこかで聞いたことがある。
日本の政府や行政がこれに当てはまるのではないか。間違ったと気づいたときには
引き返したり、そのことをやめたりしてもいいはずなのに今まで使った費用が
勿体ないなど、なんらかの理由をつけて継続しようとする。
継続するほうが無駄に費用がかかるのになぜ続けてしまうのかわからない。

”人にはだれでも生きる権利があるはずです。軍艦を建造するお金があったら、
病院を建てるのに使ってほしい、と思いますけどね。”
この言葉はものすごく共感できる。この国はもっと福祉に力をいれてほしい。
わけのわからないところに税金を使うのではなく、もっとまともなところに
使ってほしい。そうしないとこの国はダメになってしまう。

ガレーンは人を救うことと、軍医として戦争が人間にどんなめちゃくちゃなことを
やらせるか、わかっている。
”カリエスを治すのに、どれほどのエネルギーが必要なのかわかっても”
せっかく病気が治っても戦場に出たら、怪我をするか死んでしまう。
だからガレーンは戦争をやめることをこれほどまでに願うのだ。
白死病の治療薬を盾にしても、たった一人で戦争をやめろと言っても無力かもしれない。
でも世論が動けば、国を動かすことができる。国が動けば、他の国でも賛同してくれる。
そういうふうに少しずつだけど永遠平和になればいいなと願っている。

今年に入って一番面白かった本だ。久しぶりの大当たりでうれしかった。
SNSを見ているとこういう本の出会いがある。SNSを見てなかったらこういう本は
知らないし、読まないだろう。外国の本を避けるハードルが下がった。また
こういう面白い本に出会いたい。

・マクロプロスの秘密
300年生きることができたらどうするだろう。私は今のままでも十分だと思うのに
300年も生きたら永遠と続くことにうんざりしてしまう。
”もし三百年間も生きることができたならば人間の一生はとても価値のあるものになるだろう!戦争もなくなるし、あくせくかけずりまわることもなくなるだろう。恐怖もエゴイズムもなくなる。だれもが知識を十分持った尊厳のある存在になるのです。
(両手をにぎりしめる)卓越し、完成されてなんの欠点もない、神のまことの息子となるでしょう。もはや神の未熟児ではなくなるのです。”
本当にこの文章のように300年生きたら完全なる人間になるのだろうか。私はそうは思わない。人類が存在して初めこそ政治や行政について手探り状態でやってきていると思うが
それから何十年、何百年たっても完ぺきとは言い難い。不正やミスが多いし間違った方向に進むことも多い。昔に比べれば、外側(道具)は進歩して便利になったけれど、人間の内面はまったくといっていいほど進歩や進化はしていない。だから300年生きても人間は進化をしないのではないか。生きれば生きるほど欲が出て、退化する気がする。
結局エミリアの300年間、生きてきた話を聞いてみんな秘薬の書いた紙を受け取らなかった。クリスティナのように紙を燃やしてしまえば、後腐れなくなかったことになるし、
みんな秘薬のことは忘れてしまう。それが一番いい結末だろう。

1937年に書かれた作品で外国の、そして戯曲集でもしかして読めないかもと思った。
昔スティーブンキングの本を読んで挫折しかけたことがあった。(もちろん翻訳)
外国の雰囲気がどうしてもわからず、ちょっとしたニュアンスもつかめずいた。
生活様式や習慣が違うとこんなにもわからなくなるもんだと感心した。
でもこの本は戯曲の脚本形式で書かれているから舞台を見ているような感覚で読めた。
白い病気で調べてみるとすごく有名なのか今でも演劇をしているところがある。
近くでこの演劇をやっているところがあれば観てみたい。

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